『その数学が戦略を決める』
計量経済学を学んでノルウェーに行っている弟から勧められた本。彼曰く、ビッグデータが昨今取り上げられているが、何一つ新しい事言ってねぇ。らしい。(弟のブログ)
そして、以前紹介した「ビッグデータの衝撃 ~巨大なデータが戦略を決める~」にはデータ分析がやらかしてしまう事についてビッグデータを分析して結果が出ればそれが答えだ!みたいになっていて、時には統計処理の結果が無意味だったり間違っていたりする事は無視されてる。」
との事。そんな統計を深く学んでいる彼から紹介されたのが、「その数学が戦略を決める 」だ。ビッグデータという今年の流行りの基本は統計であり、その統計をいかにビジネスや施策に使えるかを考えさせてくれる本である。
本書籍を読むと数字で物事を決める素晴らしさについて知る事が出来る。(眉唾なものもあるが。)
特に、 「専門家は自分で入れ込んでしまうが、統計的な回帰分析はエゴも感情も持たない。」の言葉は多くの専門職や経営者、にちゃんと知って欲しいですね。ただ、この本は何でもかんでも蓄積されたデータがあれば、統計で分析すれば何でも解決出来るようなメッセージを強く感じる。
ビッグデータという言葉に踊らされて、データだけを集めて人が判断を下そうというようなデータの使い方では、結果的にはビッグデータは生かせず、むしろ誤った判断を下す事になる。人間の残された仕事は「仮説を作る」事であり、裁量と地位が伝統的な専門家からデータベースのお告げに移行する。医療といった人が感覚や経験で判断していた事は、蓄積されたデータから分析がされるようになる。
医師の行う事はPCに情報を入力し、コンピュータが判断した結果を患者に知らせるだけになる。確かにロートルな医師は経験は豊富だが、新しい症例については非常に疎いケースが多くある。医療の質の均一化と向上においては素晴らしい事になるであろう。
この他にも、WebサイトのABテストや、トラフィックからの行動分析、データ化され蓄積されている物は組み合わせる事も含めてより分析をする事によって、価値を生み出す事が出来るようになる。
要は、サイトのユーザビリティや心理学といった少し本をかじった知識や経験で物事を話す人の考えを覆す為には、数値で説得していくしかない。その判断結果は誰にでも分かる数値で結果を示す必要がある。
数値で出せば、誰ももう文句は言えなくなる。(もちろん会議で数値をベースに押し通す力は必要。)
回帰分析や、ランダム化を使っていない企業はほぼ間違いなく価値を無駄にしている。本書籍では、ランダム化実験により透明性のある威力を活用すべきであると説いている。(数値結果がまさにそう。)
要は、企業側がサービスの受け手である消費者から最大限お金をむしり取れるのかという点をしっかり計算出来ているかどうかだ。日本で言うとGREE等のソーシャルゲームはまさにこの典型だ。
「この人はいくら課金していて、何回クジを引いているからそろそろレアアイテムをあげないと諦めてしまうなと。」という痛みポイントを見つける能力を彼等は持っている。
サイトの構成にしても、ゴール(課金)がどちらの方が高いのかといった点を常に分析し、改良を加えている事で、顧客から金をむしり取る最高のマシーンに仕立てている。
結果として、やっちゃいけない事までやってしまって、現在は成長性にかなり陰りが見えてきているが、彼等はお金を課金させるサイト作り、ゲームの運営についての努力は凄い物がある。そしてそれは偶然でも無く、数値の分析による努力によるものだ。
作っただけでは終わらず、常に分析し改良を加える。これはシステムを内製化出来ているからこそ出来る事だ。仮説を出し、やってみて検証し、どの相関が果たして正しかったのか。その相関をベースにどのようなビジネスを作るのかではないだろうか。
こういった事を考えさせてくれた本書籍は、ビッグデータについて考える人は是非読むべきであると思う。但し、統計には限界がある。その限界を本書籍はあまり言っていないので、過信しすぎるのもあれだな・・。そして、何故タイトルが数学なのかは意味が良くわからない。統計とか数値でいいと思うのだけど。